昨年10月、岸田首相が「リスキリング支援に5年間で1兆円を投じる」と表明して話題になりましたね。
あれから半年以上が過ぎました。
リスキリング、してますか?
勤務先でリスキリング始めているよ、という人も増えているようです。
でも、そんな恵まれた環境ばかりではありませんよね。
リスキリングなんて話題にもならないわ。
超アナログなうちの会社、この先大丈夫かしら。
給料が高いIT業界に転職したいけど、専門スキルがないしなあ。
そんなあなたにぴったりな制度が始まりました。
この記事では6つの質問に答えながら、新制度をわかりやすく解説します。
新制度とは、経済産業省の補助金でキャリア相談からリスキリング、転職成功までを一体的に支援する「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。
この記事では「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の概要を、6つの質問に答えながら解説します。
対象条件に当てはまらない人におすすめの制度も紹介していますよ。
- 「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の概要
- 新制度の対象条件に当てはまらない場合は?
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」とは
補助金でキャリア相談から転職成功までを支援!
Utilly(株式会社GO TO MARKET)が6月23日に行ったリスキリングに関するアンケート調査※1によると、「リスキリング」という言葉を知っているビジネスパーソンは52.8%、そのうち「リスキリングの取り組み経験」がある人は38.2%でした。
※1Utilly「リスキリングに関するアンケート調査
少しずつ増えてはいるようですが、リスキングという言葉を知っている人の中でも、実際に経験がある人は半分以下です。
職場にリスキリング体制がない個人にとって、自分の時間と費用を割いてまでリスキリングするモチベーションは、なかなか湧いてこないのかもしれません。
また、転職やキャリアアップに興味はあるけれど、何をどう始めたらいいかわからない、という人もいるでしょう。
そんな社会人に突破口を示してくれたのが、経済産業省の補助金で「キャリア相談からリスキリング、転職までを一体的に支援する」新しい制度、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。
🔸リスキングを通じたキャリアアップ支援事業
受けられる支援 | 1️⃣ キャリア相談 ・キャリアの棚卸し ・スキルの棚卸し ・キャリアゴールの設定 ・受講する講座について 2️⃣ リスキリング講座の受講 転職目的のリスキリング費用を40万円まで補助 (受講費用の2/1相当額) 転職成功後1年以上在籍で16万円まで上乗せ (受講費用の5/1相当額) 3️⃣ 転職支援 ・伴走支援 ・職業紹介 ・転職後のフォローアップ |
対象者 | 転職を希望する在職者 正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員 (経営者、個人事業主、フリーランスは対象外) |
受講できる講座 | 職業との関連が明確な講座 プログラミング、ウェブデザイン、動画編集、 医療、介護など (趣味や教養が目的のものは対象外) |
受講期間 | 最大1年間 |
では、表の中身について詳しく解説していきますね。
質問1 補助金で何がおトク?
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、政府が転職目的のリスキリング費用を1人当たり上限40万円まで(受講費用の2/1相当額)補助するという制度で、民間企業(補助事業者)が提供するリスキリング講座を最大1年間受講できるというもの。
さらに、講座を受けたうえで転職に成功し、1年以上在籍すると上限16万円まで(受講費用の5/1相当額)が上乗せされ、合計で最大56万円が補助されます。
リスキング講座受講の補助金は転職を希望する個人に直接給付されるものではなく、キャリア相談からリスキリング講座、転職支援までを一体的に提供する民間企業(補助事業者)に経費補助という形で支払われます。
個人はその分、自己負担額が軽減されるという仕組みです。
質問2 どんな人が利用できる?
利用できるのは転職を希望する在職者で、正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員など、企業などと雇用契約を結んでいる人です。
経営者や個人事業主、フリーランスは含まれません。
「転職を希望している」という点が大前提となりますが、現在の勤務先では取り組みたい分野のリスキリング体制がない人、新しいスキルを身につけて収入アップしたい人などに適した制度です。
受講前にはキャリアコンサルタントなどの専門家と面談し、キャリアやスキルの棚卸しからキャリアゴールの設定、受講する講座について相談することになっています。
質問3 どんな講座が受講できる?
受講できる主な講座は、プログラミングやウェブデザイン・動画編集、医療・介護など。
職業との関連が明確なものに限られ、趣味や教養が目的のものは対象外です。
ですから、とりあえず学んでおきたい、資格を取っておきたい、といった目的では受講できません。
受講する講座はキャリア相談で決めていきますが、今後どんな分野で活躍したいのか、どんな分野のスキルを身につけたいのか、方向性は自分なりにある程度考えておくことをおすすめします。
リスキリング講座の受講後は、転職に向けた伴走支援や職業紹介、転職後のフォローアップが受けられます。
キャリア相談と転職支援は無料です。
質問4 どうすれば利用できる?
利用については、一体的な支援を行う補助事業者に対して個人が直接申し込む形です。
利用を検討している方は、補助事業者のプログラム内容などを確認し、申請窓口のサイトにアクセスしてください。
詳細は経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の公式サイトをご覧ください。
また、今のところ、個人への支援期間は令和7年の3月までで終了するとしています。
令和8年3月までの1年間は転職後のフォローアップが行われ、事業完了となる予定です。
期間限定なので、リスキリングと転職の両方を考えている人はこのチャンスを上手に利用してくださいね。
政府はこの支援事業に今年度の補正予算753億円を計上していますが、これは「5年間で1兆円」の予算に含まれています。
1人あたりの補助費用は平均24万円を見込み、今後3年間で合計33万人の転職支援を目指すとしています。
質問5 なぜ政府が転職を支援?
転職を考えてる人にはありがたい制度だけど、そもそもなぜ政府が転職を支援するんですか?
終身雇用制度が崩壊し、人生100年時代に向けて第二、第三のキャリアが必要という時代ですから、転職自体は珍しくなく、むしろポジティブなイメージが強まっています。
とは言え、場合によっては、まだまだリスキーな選択でもありますよね。
それでも政府が転職を支援する理由の一つは「賃金アップ」です。
「物価が高騰するのに給料は上がらない!」
国民の切実な声が響き始めた昨年10月、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」が閣議決定され、4つの対策が示されました。
その対策の1つ「『新しい資本主義』の加速」の中で決まったのが、「『人への投資』の施策パッケージに5年間で1兆円を投じる」だったのです。
「キャリアアップ」という言葉が使われていますが、端的に言うと「収入アップ」です。
1 企業間・産業間の労働移動の円滑化
2 在職者のキャリアアップのための転職支援
3 企業による在職者のリスキリング
内閣府資料:「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」より
1は非正規雇用から正規雇用に転換する企業への支援など、3は従業員のリスキリングを実施する企業への支援などです。
転職支援の目的は賃上げと述べましたが、転職支援は結果的に1の「企業間・産業間の労働移動の円滑化」にもつながるため、政府はこれらを一体的に進めるとしています。
でも、なぜ転職支援が賃金アップの施策になるんですか?
その根拠となった背景を、経済産業省が3つのグラフで示しています。
文字が小さくて見にくいかもですが、拡大して🟥の部分に注目してください。
つまり、
1 学び直しをしていない人が多く、転職希望の人が少ない。
➡︎この2つ、関連がありそうだ!
2 転職しても賃金が上がらない。
➡︎だから転職したいと思わないのか。
3 転職に向けて準備する人が少ない。
➡︎勉強も準備もしない!?
そりゃ、賃金上がらないでしょ!
と、政府の人が言ったかどうかわかりませんが、「それなら国が人肌脱がなくては!」となったわけですね。
「人への投資」を進める一方で、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」の中のもう1つの対策「物価高騰・賃上げへの取組」では、特に中小企業の生産性向上などを同時進行で支援しています。
生産性が上がると中小企業も高い賃金でスキルの高い人材を雇えるようになり、スキルの高い人材がさらに生産性を高めて、さらなる賃金アップにつながる、という好循環を作るのが政府のねらいです。
日本人に不足している転職準備(キャリア相談)と学び直し(リスキリング)をセットにして補助金で「転職支援」をすれば、賃金アップが実現できるというわけです。
質問6 転職成功の鍵を握るのは?
ひと昔前に比べて、転職に対する心理的、社会的ハードルが下がったとはいえ、人生の大きな決断であることは確かです。
そういう意味では、経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」に、キャリア相談がセットになっているのはいいですね。
けれども、前にも書いた通り、今後どんな分野で活躍したいのか、どんな分野のスキルを身につけたいのか、まずは自分なりに考えて調べてみるのが重要。
転職を成功させ、キャリアアップや収入アップにつなげられるかどうかの鍵を握っているのはあなた自身なのです。
という、すごくベタな結論になりましたが、キャリア相談を受ける上でもめちゃくちゃ大事なことなので、ぜひ心に留めておいてくださいね。
対象条件に当てはまらない場合は?
「教育訓練給付制度」がおすすめ
「リスキリングを通じたキャリア支援事業」は、「転職を希望している在職者」が対象のため、利用できる人が限られるのがデメリットです。
では、在職中ではない人や、すぐに転職を考えていない人など、対象条件に当てはまらない人がお得にリスキリングする方法はないのでしょうか?
民間のスクールやオンライン講座など、誰でも自由に受講できる講座は多数ありますが、ここでは国の支援で自己負担を軽減できる「教育訓練給付制度」をご紹介します。
教育訓練給付制度とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した人に対し、受講費用の一部(最大70%)が支給される制度です。
働く人の主体的なスキルアップを支援するのが目的の制度ですが、雇用保険加入期間などの条件を満たせば、求職中の人でも利用できるのが特徴です。
転職希望の有無なども問わないため、より幅広い社会人が対象となっています。
受講費用の一部が個人に直接支給されるのも「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」とは異なる点です。
教育訓練には「一般教育訓練」「特定一般教育訓練」「専門実践教育訓練」の3種類があり、それぞれ対象の講座や給付率が異なります。
教育訓練給付の対象講座もDX(デジタル・トランスフォーメーション)関連が増えていますので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
教育訓練給付については、こちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」については、最新情報に沿って随時内容を更新していきますので、チェックしてみてくださいね。
- リスキリングは「今とは異なる仕事を目的に新しいスキルを学んだり、学ばせたりすること」
- 特に、需要が高まるデジタル分野へのリスキリングが求められている
- リスキリングは企業だけでなく、個人にとっても生き残り戦略
- 「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、キャリア相談、リスキリング、転職支援をセットでおトクに受けられる制度
- 制度を利用できるのは転職を希望している在職者
- 受講できるのは職業との関連が明確な講座
- 政府が転職を支援する目的は賃金アップ
- 転職成功の鍵を握るのはあなた自身
- 対象外の人には「教育訓練給付」がおすすめ